永久の氷海

優しい色をした雪なんて
食べる気になれない
溜息だけをひとつ吐いて
残らず溶かしてしまいたい

時が流れない川の上を歩いて
「ひとりになってしまったねえ」
ときみは言うかい
途端に森から影が伸びてきて
きみを攫ってしまうことも知らないままに
ぼくが
きみの居なくなった川の上に
墓をつくることもない
凍らせて
そのまま留めることもない
ただぼくは
心臓をここに持ってくるだけだ
その心臓を砕いて
勿論粉々にしてしまって
もう永遠に見つけることのないように
見つけても絶対に判ることのないように
目の届かないところへ行けと言う

何色の雪が降ってもいいが
どうか君の色だけはと
呆然と呟く
しゃく、と足下の霜が音を立てる


なあに、心配することは無い
外套を着ていれば寒くはないが
人間などというものは、
ナイフひとつで簡単に死ぬのだから。





(橘優佳)