知性は罪だと提唱する知性

ねえ君、好きなことをしているからと言って、それが頑張っていないということの証明になるかい。ねえ、君、仕方がないから、自分のせいだからと言って、それが君自身を潰してよいという理由に、果たしてなるだろうか。
ねえ、お願いだから、どうか、ゆっくり休んでくれないか。
君自身の君のことを、その頭をきちんと撫でて、どうか涙を流してあげてくれないか。


ぼくは、ぼくはさ、もう疲れてしまったんだよ、ぼくはさ、世界の真っ只中で生活をしながら、常にその世界の矛盾について考えていることに、もう疲れてしまったんだよ、ぼくは、幸せになりたくて、誰かを幸せにしたくて、ねえ、好きな人が笑っているのを、幸せそうにしているのを見たくて、でもこの阿呆な知性はそんなことを気にもかけてくれない、ぼくのしたいことを、重要だとは考えてくれない、こんなポンコツならいっそ無い方が良かった、煌めく星を見てきれいだねって笑えたならもうそれで良かったのに。

要らなかったんだ!僅かな差異を見つけ、考えていることを考え、挙句の果てに正しさの物差しを失ってしまう、失わなくてよかったものを失い、得なくてよかったものを得ている、どこまでも愛するもののことを考えないこの知性なんて要らなかった。素直に美しいと言えずに滞って澱んだ解釈は、ぼくの内側に着々と蓄積してゆく。ぼくはそれを解毒しなければならないと言って事細かに調べ始めるのだ。ああ、ぼくはぼくに言いたい、それがどうして解毒になろう!たとえば分解し尽くしてその元素記号までがすべて解ったとして、じゃあその質量もすっかり減っただろうか?それは、君、ほんとうに器の内からすっかり無くなってしまったのか?
そうだというなら、なぜ、今、そんなに顔から血の気が去ってしまっているのか?
なぜ、そんなに精気の失せた眼をしているんだ。

美しいものを見て美しいと言えれば、好きな人に好きだと言えれば、つまりぼくは愛おしいものを見て愛おしいと思えたならもう白痴だって何だってよかった。自分が死ぬということすら知らないままに死んでしまっても、もうぼくはそれでよかった。忌々しいこの知性、どうにかしてぼくから引き剥がしてぐちゃぐちゃに丸めて千切って踏みつけて海に投げ捨ててしまいたい、跡形もなく燃してしまいたい、そう言ってぼくの知性はさめざめと泣く。ぼくの知性はもうどうにもならないと言ってぼくの知性が泣くのだ。
たぶん、これは人間の業なんだと思う。




ただ笑って泣いて怒って赦せたならぼくはほんとうにそれでよかったのに。